水牛だより

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片岡義男の『あとがき』

発売からすでにひと月が過ぎようとしているが、片岡義男『あとがき』の編集に携わった。本に出来て、よかった。

片岡さんの書籍には、あとがきがついているものが多い。エッセイだけでなく、小説にもついている。そして、それがおもしろいのだった。最初に「を!」と思ったのは『僕が書いたあの島』(1995 太田出版)というエッセイ集の長いあとがきだった。エッセイ集なのに、自分の書く小説について書いてある。どのようにしていまのような小説を書くようになったのか、という論考として読んだ。

次にあとがきについてしばし考えたのは『エンドマークから始まる』『私の風がそこに吹く』(いずれも2001 角川文庫)を読んだときだった。短編小説集のあとがきで、これらも小説論だが、書く側だけでなく小説を読む側まで考えが及んでいる。

あとがきを集めてみれば、片岡さんの小説論が出来上がると思った。それが『あとがき』の出発点だった。考えたのは20年近く前で、いつもなんとなくぼんやりと頭の中にあったけれど、20年を経てまとめられたということは、その20年の間に書かれたあとがきが加わっていることでもあるから、そのほうがいい。

あとがきは依頼されなければ書かないし、書くときはたいてい怒っている、と片岡さんは言っている。編集サイドからすると、著者に初校を見てもらうときに字数を含めて正式にあとがきをお願いするのが作業の流れの常だ。でも著者である片岡さんにとってはその本はすでに終わっているもの。あとがきのために少し戻って考えなくてはならない時差が「たいてい怒っている」ことの理由かもしれない。

それでも、片岡さんのあとがきのおもしろさには抗しきれず、今回の『あとがき』にもまた「あとがきを書いてくださいね」とお願いした。それからの経緯は『あとがき』の「あとがき」に詳しく書かれている。まず「あとがきを書いてください」という依頼のひとことが短編小説のタイトルとなったのだが、なぜこれがタイトルになりうるのか、なぜ片岡さんの小説脳を刺激したのかよくわからない。小説の内容についても、きちんと説明されているけれど、どこかわからなさが残るのはいつものことで、むしろそのわからないところこそがおもしろい。「あとがきを書いてください」という短編は実際に書かれて、片岡義男.comで公開されている。ぜひ読んでみてください。→ 「あとがきを書いてください」

本ができたあとで、この『あとがき』は、私と同じように、「あとがきを書いてください」と依頼した編集者たちのひとことがあったからこそ実現したのだとあらためて思った。『あとがき』はそのクロニクルであり、アーカイヴでもある。


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by suigyu21 | 2018-11-01 21:10 | Comments(0)