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水牛だより

肝心かなめの領域

ジンは想像力のはたらきをよくすると請け合っているのはルイス・ブニュエルだ。『映画、わが自由への幻想』(早川書房 1984)には「現世のたのしみ」というタイトルでお酒と煙草についての一章がある。その一章のためだけにもこの本を手放せない。バーとアルコールと煙草は好きでたまらない、肝心かなめの領域である、とブニュエル自身も書いている。煙草が身につかなかったのがちょっと残念に思えたりします。その中の実用的な一節を以下に。

「いうまでもなく、わたしはバーでは葡萄酒を飲まない。葡萄酒は純粋に肉体的なたのしみであって、どうあろうと、想像力を刺戟してはくれない。
 バーに坐って、夢想をよび出し、維持するには、イギリス産のジンがなくてはならぬ。わたしのごひいきの飲みものはドライ・マーティニだ。
 ………
 長い経験の結実であるわたし流のつくりかたを、ここで披露させていただきたい。いつもこのやりかたで、なかなかうまく行っているのだ。
 客が来る前日に、グラス、ジン、シェーカーと、必要なものはすべて冷蔵庫に入れておく。手持ちの寒暖計で、氷が零下二十度前後になっていることをたしかめておく。
 翌日、友人たちがそろってから、いるものを全部とり出す。とびきり堅い氷の上に、まずノワイー・プラットを数滴と、アンドストゥーラを小さな茶さじに半杯、たらす。一緒にシェークして、外に出す。二通りの香りがうっすらついた氷だけとっておき、この氷の上に、生《き》のジンを注ぐ。もう一度さっとシェークして、グラスにつぐ。それだけのことだが、これにまさるものはない。」
by suigyu21 | 2007-09-30 20:38 | Comments(3)
Commented by ital at 2007-10-01 10:30 x
ブニュエル氏もずいぶんハードボイルドだったんだなあ。「Noilly Prat」は、日本では「ノイリー・プラット」と呼ぶのが一般的ですけれど、本当は「ノワイー・プラット」と発音するのですね。それとも、英語読みと仏語読みの違いだけなのかな。でも、「VERMOUTH」は、「ヴェルモット」ですものね。ところで、「アンドストゥーラ」って何でしょう? それにしても、美味しいマティーニを飲みにいきたいですね。
Commented by suigyu21 at 2007-10-01 20:21
ルイス・ブニュエルは1900年に生まれて1983年まで生きました。シュルレアリズムやスペイン内戦やハリウッドを生き延びたわけで、ハードボイルドというのとはちょっと違うかも。
アンドストゥーラはビターのひとつでしょう、たぶん。
Commented by ital at 2007-10-11 20:06 x
彼の作風がハードボイルドだと書いたのではないのですが・・・。映画を2本ほど観たきりの、わずかながら持っていたイメージとは違って、マティーニの飲み方がかなりドライな感じを受けたのでそう書いたのでした。それほど深い意味はなかったのですが、ちょっと的外れでしたか・・・。
調べてみたら、「アンドストゥーラ」は、「アンゴスチュラ・ビターズ」のことだと分かりました。代表的なビターズのようですね。勉強不足でした。それにしても、一度は真似してみたい飲み方ですねー。