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水牛だより

バス停は人生

買い物をして帰宅するためにバスを待つ。夕方に近い午後の時間、バス停にはわたしと同じような年寄りたちが並んでいる。このごろの年寄りは荷物が多い、いや年寄りにかぎったことではなく、誰もが重そうな荷物を持っている。ひとつのバス停に四つの行き先のバスが停まるため、行列は比較的長いことが多い。少し後ろに並んでいる男性が膝を折ってうずくまったのを見て、わたしの後ろにいた女性が「だいじょうぶですか? 前のほうにベンチがあるからあそこに座ったら?」と声をかける。「いや、だいじょうぶ、だいじょうぶ、ちょっと休んでいるだけだから」と男性は答える。「でも座ったほうがいいわよ」とさらに言う。それから少し声をおとしてわたしに向かって「ベンチまでいっしょに行ってもいいんだけど、でもね、連れていく途中でなにかあったら、あなた、こちらの責任になるのよ。だからあまり親切にしすぎてはだめよ」と言ったところにちょうどバスが来て、彼女はそれに乗っていってしまった。

ちょっと休んでいるだけだというとおり、自力ですっくと立ち上がったおじ(い)さんはわたしと同じ行き先のバスを待っているという。バスの乗り口まで20メートルくらいありそうだ。その乗り口のかたわらで数人が列を離れてバスを待っている。その人たちを見咎めて、おじ(い)さんが言う。「あいつら、乗るときは並んでるおれたちより先に乗るんだよ、見ててごらん。ばかやろー並べよ、と言ってやろうか」といったところでちょうどバスが来た。「そんなこと言ってないで、あの人たちより早く乗りましょう」とおじ(い)さんを先に乗せる。乗ってしまえばそれぞれあいている座席に腰かけるので、会話はそこまででおしまいとなる。

バスは電気バスだった。静かで車体もおおきく、乗り心地がよいから、当たりの気分だ。待っている人たちの人生が交錯するパワースポットなバス停を離れて、バスは快適に走り始める。


by suigyu21 | 2025-06-01 17:49 | Comments(0)