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水牛だより

ひとりのときに

高橋茅香子『ひとりのときに』(2022年 horobooks)を少しずつ、ひとりのときに読んだ。拙者著『水牛のように』のふた月あとにおなじhorobooksから出たこの本は、おなじ判型で、姉妹のように見えるのがうれしい。本が出た時期でいうと、わずかな差で『水牛のように』が姉で『ひとりのときに』が妹だが、茅香子さんは1938年寅年生まれで、わたしより8歳年上の先輩だ。

月刊のミニコミ「水牛通信」を出していたころ、その編集や執筆を担当した人のなかで、1938年寅年生まれの人が多かったのはどういう偶然だったのか。編集委員会(自称)には津野海太郎さん、平野甲賀さん、鎌田慧さん、高橋悠治さんがいて、茅香子さんと林のり子さんは原稿を書いてくれたり、いろんなイヴェントを助けてくれた。彼らの一年下には藤本和子さんと片岡義男さんがいる。戦争に向かうころに生まれたこどもの数は少なかったことを思えば、小さな集団としては、とても偏っていたことに間違いはない。

閑話休題。

『ひとりのときに』を読むと、こういうふうに年齢を重ねられたらいいなと思うし、平易な書きかたのせいか、案外かんたんにできそうな気がしてしまうけれど、実際にはそうはいかない。たとえば、朝日新聞社をリタイアしてから続けている英文翻訳塾を、コロナ禍でもずっと対面でおこなった事実ひとつをとっても、そこにゆるぎない強さを感じる。声高になにかを主張したりしないこの強さは、茅香子さんのパズルの強さと根はおなじなのではないかと思ったりする。オセロが流行していたとき、勝ち抜き大会で東京都の代表になるくらい強いのだ。ひとりで出来るパズルをいくつかおしえてもらって、いまもときどきはまるが、楽しむわりに、わたしの成功率はとても低い。だから茅香子さんのその強さが特別であることはよくわかる。

98字で、という制約を自分でつくって日記を書くのも、ひとりのときにふさわしい強さだ。ウエブではずっと読み続けている。ほぼリアルタイムの楽しみだ。本になって2021年という一年分をまとめて読むと、具体的なことは書かれていないけれど、茅香子さんにとっての私的な出来ごとがあると同時に、その年にわたしが経験したことと重なる出来ごともあって、同じ時間を生きていたことにしみじみとした。もっともっとひとりで遊ぼう、とも思った。

昨年の秋に、とあるコンサート会場のロビーで会った茅香子さんは、杖を持ってはいたけれど、真っ白な髪に軽いウエーブがかかっていて、すてきだった。思わず「かわいい!」と言ってしまったっけ。



by suigyu21 | 2023-03-19 20:47 | Comments(0)