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水牛だより

親指シフトキーボードを使う人

「富士通株式会社は、親指シフトキーボード3製品、および日本語ワープロソフト「OASYS V10.0」、日本語入力ソフト「Japanist 10」の販売を2021年中に終了し、2024年または2026年にサポートを終了すると発表した。」

というニュースを読んだのはついこの間のことだ。はじめて使った日本語ワープロは1990年代の前半だったと思うが、「OASYS」だった。当時月刊で発行していた「水牛通信」の版下を、ワープロで作ってしまおう、ということになって、そのためにデスクトップ型の高価な「OASYS」を買ったのだった。親指シフトキーボードは使いはじめて、すぐに慣れた。日本語の入力に特化されているので、慣れると対談なども、聞きながら入力できるようになった。記憶媒体は8インチのフロッピーディスクで、ペラペラのディスクが紙の袋に入っていた。

そんな20世紀の後半から21世紀になって、片岡義男さんと仕事をするようになった。片岡さんも親指シフターだった。原稿は、フロッピーディスクで郵送されてくる。封筒に入っているディスクはもう3.5インチでプラスチックケースに入っていて、一枚のこともあり、数枚のこともあった。私はそのころは「OASYS」のワープロではなく、すでにAppleのデスクトップ型のパソコンを使うようになっていた。DTPが必要になっていたからだ。親指シフトはすっかり忘れて、ローマ字入力に移行していた。当時のパソコンにはまだフロッピーディスクリーダーがついていた。フロッピーディスクサイズの入り口(?)が本体の横にあいていて、そこにディスクを差し込むと、中身を読み取ってくれる。

そのうち、買い替えたパソコンはデスクトップ型からノートに変わり、薄く軽くなって、フロッピーディスクを読み取るための入り口はなくなってしまった。フロッピーディスクに入る程度の容量はネットで受け取れるようになっていたのだ。しかし片岡さんからはあいかわらずフロッピーディスクが送られてくる。しかたなく外付けのフロッピーディスクリーダーを買った。なにひとつ、問題はない。

数年ほどたって、片岡さんは親指シフターだからなのだろう、富士通のパソコンを使うようになった。片岡さんが「使う」のは、私にとっては原稿がメールで届く、という意味だ。こちらからもメールを送ることができるようになったのだ。しかし、片岡さんは原稿を送るための装置としてメールを使っているだけで、こちらからの返信を待っていたりはしないのだった。

片岡さんからメールで届く原稿は、すべて添付書類だ。どういうシステムなのか訊いてみたところ、原稿はOASYSのワープロ機器で書く。そのワープロには通信機能がついていないので、原稿をフロッピーディスクにコピーして(あるいはワープロの記憶媒体がフロッピーディスクなのかもしれない)、そのフロッピーディスクに入ったテキストファイルをパソコンで読み取ってメールで送る、ということだったと思う。受け取ったメールを開くと、一つから数個くらいまでのテキスト書類が添付されているだけで、メールの本文にあたるものはない。まず添付書類を保存して、それから開いてみる。ワープロで書いたそのままに、原稿は20字で改行されている。その設定は行数で原稿の分量がわかるからに違いない。受け取る側にとっては、20字ごとの改行は必要のないものなので、まずは削除するが、段落は活かさなければならず、注意が必要な最初の作業だ。さらに親指シフトに特有の誤入力にも注意する。

外付けのフロッピーディスクリーダーは不要になって、片岡さんに進呈した。いまも現役かもしれないし、そうでないかもしれない。ローマ字入力は慣れてみればどうということもないですよ、と言ったけれど、安易に移行しないところが片岡さんの片岡さんらしいところ。未使用のOASYSが一台、戸棚のなかに確保してあるらしい。起動してみると、動かないかもしれないですよ、などと言ってみても、見事にぜんぜん動じません。

片岡さんからはときたま、原稿以外のメールが届く。そして、そのメールの本文はもちろん、20字詰めの添付書類となっている。メールをもらうのはうれしい。が、送るための原理がわかるだけに、お手数をおかけしました〜、という気持ちにもなります。


by suigyu21 | 2020-05-31 20:08 | Comments(0)