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水牛だより

コーヒーはブラックで

忙中に閑を見つけた午後に、片岡義男さんと会って、コーヒーを飲む。
いくつか進行中のしごとがあり、それらについて軽く打ち合わせをするひとときだ。打ち合わせというのは、軽く、に限る。実際にやってみなければわからないことは多い。始めるまえになにごとかががっちり決まってしまっていたら、やってみる意味がないと思う。

片岡義男.comがきょうリニューアルされた。このサイトでは「全著作電子化計画」が目標だ。私も小説の編集スタッフのひとりで、すでにこの夏に、100タイトルを発売した。片岡さんからは書いた順にナンバーをつけて、というリクエストがあり、それに従って作業を続けている。今月から次の100タイトルが順次発売していくことになっている。

最初の100、というのは、いわば、便宜的に決めた数字で、たくさんあります、という表明でもあった。いま、次に続く100作品を編集していると、前の100とは明らかに違う方向が見えてくる。主人公は女性が多くなり、あいかわらず彼も彼女も移動しているけれど舞台は遠いどこかではなく日本のなかであり、そして結婚(しない)というテーマが多い。身近なストーリーなのに抽象の度合いは高くなっている。100の区切りは偶然のものだけど、その区切りがあったから、前後で違いを感じることができたのだろう。

そんなことを片岡さんに語ると、それは自分が楽に書けたからそうなったのでしょう、という返事が返ってきた。「楽なほうにいくんです、今でもそうかもしれない、きっと楽に書いているのです」。

それから成瀬の映画や万年筆についてひとしきり語り合って、打ち合わせはおしまい。西陽がまぶしい自宅への道を歩きながら、話せば話すほどやることがふえるのだと気がついて、一瞬立ち止まって笑った。私のほかには歩いている人がいない道でよかった。
by suigyu21 | 2015-10-19 20:18 | Comments(0)