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水牛だより

青空文庫と満月はよく似合う

10月8日の夜に満月バーをするために小豆島にいってきた。

西神田にイワトというスペースがあったときに、そこでおこなわれるコンサートのあとに、お酒を出して、それぞれが楽しくおしゃべりをするためのちょっとした仕組みが満月バーだった。満月というほぼ月に一度の夜にだけ開店する。ただ単においしいお酒をショットで出すだけ。イワトを運営していた平野公子さんが今年のはじめに小豆島に移住して、そこでも満月バーをしようという提案があって、やる、と即答した。

東京から小豆島へいくのにはいろんなルートがある。どこの港から船に乗るか決めなくてはならない。港は海にあり、駅や空港は港から遠いところが多い。ただひとつ、高松駅は海に近く、電車を降りてから歩いて数分で港に着くのがいいなと思い、その経路を選んだ。東京から新幹線で岡山まで三時間半ほど、そこで乗り換えて、瀬戸大橋を渡って高松へいくのが一時間弱。港でフェリーに乗って一時間で小豆島の土庄港に着く。台風18号が過ぎていったばかりの日で、大気は澄んでいたから、瀬戸大橋からはじめて見る瀬戸内海は島の緑も海の青もくっきりと美しく穏やかだ。フェリーがぐっと右に方向を変えて土庄港に向かうと、真正面に月がのぼりはじめていた。

次の日は午前中に小豆島の隣にある豊島に渡る。この島にサウダージ・ブックスの淺野さん一家が暮らしていて、自宅に青空文庫の底本をまとめて置いてくれているのだ。そこを訪ねるのは巡礼のよう。淺野さんの案内で島を巡って、新しい美術館は外見だけ見るにとどめて、美術館と隣り合う棚田を見た。コスモスが盛りだ。本を読むのに快適な場所をいくつか見た。高いところで真下に海を見ながら読書できるなんて! 展望台から海や島を見た。スダジイの原生林を見た。甲生という集落では海に近い墓所で、無縁仏となったキリシタンの小さな墓石が集められているのを見た。豊島の石で作られた墓石は風化が進んでいるけれど、彫られた十字架はまだ見える。

そして淺野さんの家の一部屋に収められている青空文庫の底本と再会した。静かな和室の四方の壁と床の間に置かれた手作りの本棚に並べられていた。本が本棚に縦に並べられているのは美しい。底本という資料として、段ボール箱に入ったままにならなくて本当によかった。そのうち、たとえば「青空文庫底本図書館」というような名前がついて、誰でも訪れることができるようになるはずだ。ネットの青空文庫とはまるで異なる本という物質の雰囲気を味わうのには最高の場所であることに疑いはありません。

夕方に小豆島に戻って、タコのまくら、というカフェのオープニングに満月バーを加えてもらう。古民家を5年かけて仕立てたというカフェは、東京のような都会ではありえない長い作業の時間をかかえていて、はじめて見るのに懐かしい。満月バーはカフェの開店を祝う乾杯のためにふるまい酒をした。その後は職務(?)を忘れて飲んで食べ、そして同時に皆既月食をずっと味わった。暑くもなく寒くもない快適な夜だったから、ほとんど海辺にいた。ずっと外で暮らせたらどんなにいいだろう。

島はいろんなものやことが凝縮されているところだと思う。船でしか行けない島は閉じられていて開いている。「離島」なんていうけれど、ほんとは世界の中心だと思う。


by suigyu21 | 2014-10-16 23:11 | Comments(1)
Commented by espera at 2014-10-17 11:48 x
満月の海辺ですごせるなんて夢のような話!寒くもなく暑くもなく、というところがサイコーの魅力。来年はおいらも混ぜてもらえるかなあ、と夢想する。