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水牛だより

花は咲く

去年の夏のことだ。バスに乗って、窓の外を見ていたら、アパートの角部屋にからすうりの蔦が茂り、白い花も見えることに気づいた。道路と部屋とを隔てているブロック塀と部屋との狭い間のどこかに根があるらしい。その部屋に住人がいないのがわかるのは、カーテンがかかっていないから。バスに乗るのは早くても午後になってからだ。からすうりの花は夜開いて、朝には閉じるといわれているけれど、花のまわりの閉じかかっている白い糸のようなものもぼんやりと見える。歩いたならバス停ふたつ分くらいのところだから、花が咲いているうちに見に行ってみようと思っていたら、ある日、根こそぎ刈り取られているのをバスの窓から発見した。部屋に住む人が出来て、そのために整備されたのだろうか。取り返しがつかない、などと思っていたら、部屋にはカーテンがかかり、人の気配が濃厚にただようようになった。あくまでもバスの窓から見ただけだけど。

そしてことしの夏が来た。からすうりのことは忘れていたのだが、あるときふと、バスの窓からあの部屋を見ると、去年とおなじように蔦が茂っていて、花もちらほら見える。刈り取られたためにいっそう強くなったようにも思えて、すごい生命力だと感心してしまった。部屋にはたぶんずっと同じ人が住んでいるようで、その住人は積極的に緑のカーテンとして、からすうりのすべてを受け入れているらしい。蔦の伸びる先をちゃんと窓のまわりに導いているから。

花が咲いているうちに、ちゃんと見に行ってこなくっちゃ!
by suigyu21 | 2014-08-17 16:46 | Comments(0)