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水牛だより

花ざかりに潜む謎

出かけるときは駅まで歩き、そして電車やバスに乗る。電車が地下を走るときには窓の外に見るものはない。バスはいつもの道を行くし、電車が地上を走るときは外を見る。老眼になってからは乗り物のなかではほとんど本を読まなくなった。駅で降りて目的地までまた歩く。そのような道中で出合う花がきょうは数え切れないほどだった。花のほうから誘われることもある。自宅を出て、横断歩道をわたるために信号が青になるのを待っていたら、横断歩道の向こうから白い花たちが呼んでいる。マンションの端にほんの少し土のあるコーナーがあり、ナニワイバラが一本植えられていて、一重の可憐な花がいっせいに咲いたのだ。垣根など作れないほどの小さなコーナーなので近くまでいって、花びらをそっと触り、匂いも嗅いでみる。

庭の広さには関係なく、春の花があふれている家にはきっと園芸好きな人が暮らしているのだろう。近くの街路樹には低いところにツツジ、花みずき、いつもより花の多い藤などがあるし、根元には可憐なすみれもところどころに咲いている。二両編成の世田谷線に乗れば、まるで花畑のなかを走っているようなところもある。一日のうちに出合う花の数はほんとうに数え切れないほど。東京は花ざかりの街ですよ。そのうち東京の人口が減ったら、植物に侵略されるのではないかと思えるほどの精力を感じる。コンクリートの下の土の中にどんな種子が潜んでいるか、誰も知らないのだし。

ちいさな庭のある家に住んでいたときには、大通りの街路樹の根元に自生しているすみれを少しだけもらってきて植えた。以前、矢川澄子さんの黒姫の家を春に訪ねたとき、散歩していたら、小川のほとりにすみれが大量に咲いているところに行き当たり、みとれた。花を摘んで、その日の夕食はすみれのちらし寿司。おいしいのは目先だけだったが忘れられない。我が家のすみれは翌年も咲いたけれど、あまり増えずにさみしいままで、そのうち花の咲く前に雑草と間違えた人が抜いてしまった。

アメリカに暮らす友だちから聞いた話では、すみれは野生に近いから園芸の敵とされるほどに強靭で、しばしば人は除草剤を撒いてすみれを退治するのだという。そんな、と私は思う、すみれ咲く庭ならそのままにしておけばいいのになあ、と。甘い甘い考えなのかもしれない。
by suigyu21 | 2014-04-30 20:09 | Comments(0)