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水牛だより

夏の始まりの青さ

照ったり曇ったり降ったりと、短い時間で天気の変わる午後、家を出て北の方角の駅に向かう。半袖のシャツがちょうどよい気温だ。しばらくしてぽつりぽつりと雨粒が落ちてきたので、傘をさす。行く手の空は明るい。これ以上ない白さの雲のいくつもの切れ目から明るく青い空がのぞいている。この底なしの青を、いったいなんと言ったらいいのだろうか。

スカイ・ブルーといういいかたがあって、そういう色のインクのペンも持っているが、いま見ている空の空色は、おそらく隣に白い雲があることで純粋度が高まっている。いつの間にか雨は止んで、傘で遮られていた空にはおおきな虹が一瞬だけかかった。こどもの頃とはまったく違う六月だなあ。

六月の終わりは日経土曜日夕刊に半年連載されていた片岡義男さんの「あすへの話題」の終わりでもある。最終回は「山葵の海苔巻き」だったのでうれしい。

以前「健康」という雑誌に連載をしていたことがある。引き算レシピを青空文庫のなにかと組み合わせて書いていた。あるときに「山葵」と題して書いた。永井荷風の「深川の散歩」からの引用がある。

そしてその後、「深川の散歩」のコピーを片岡さんにあげた。自分でおもしろいと思ったコラムのような短いものはダメモトで手渡すことにしているのだ。日経の連載がスタートする前に、最終回はもう夏だから、山葵の海苔巻きのことにしよう、と、冬のさなかに片岡さんは言った。そら豆と胡瓜と山葵の青(=緑)の夏の始まりが、ことしの六月の終わりなのだった。
by suigyu21 | 2013-06-30 20:44 | Comments(0)