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水牛だより

いつだって逆境、どこだって辺境

編纂を担当した「叢書 群島詩人の十字路」の三冊目、『ジット・プミサク+中屋幸吉 詩選』サウダージ・ブックスから発売となった。100ページほどの軽く小さな本になって、うれしい。

ジット・プミサクはタイのいわば国民的詩人と言っていいかと思う。中屋幸吉はほとんど誰にも知られていない沖縄の詩人だ。ふたりの共通点は、その詩の歌が水牛楽団のレパートリーになっていたことと、1966年に亡くなったこと。ジットは36歳で政府軍に殺され、中屋幸吉は26歳で自殺した。

水牛楽団で活動し水牛通信を発行していたころ、ふたりはすでに死んでいたけれど、身近な存在だった。そのころはふたりが生きていた時代の延長にあったのだ。そういう意味で身近な存在は世界中にたくさんいたから、そこからふたりだけを取り出してみようと考えたことはなかった。そのアイディアはサウダージ・ブックスの淺野卓夫さんのものだ。なあるほど、おもしろい、とすぐに賛成したのだった。

水牛でタイ語の翻訳が必要になったら、ほぼ自動的に荘司和子さんの仕事となる。ジットの詩はすでに彼女によって訳されていて、水牛でも読めるようになっているけれど、中屋幸吉の詩とならべることを考えて、改訳をお願いした。さらにジットについても書いてもらった。

ふたりが生きていたころの世界から遠のいた今の世界で、ふたりの詩はそのままに抽象度を増しているように感じられる。そして、ふたりにとってはいつだって逆境だったし、どこにいても辺境だった。それを嘆いているわけではなく、ただそれを生きたのだった。暗い時代の持っている逆説を深く感じる。詩の言葉は遠く遠くまで届く。

淺野さんとはじめて会ったのは台風の沖永良部島だった。どうしてそこで出会ったのかは説明できる。その後、あまりうまく説明できない偶然のような出会いもあって、ついには本をいっしょに作った。「一冊の本は、著者がそこから出発したしるしだ」という辻まことの一文がよくわかる。ジット・プミサクと中屋幸吉に続いてなにを作ればいいのか、アイディアだけはいくつも生まれているから。
by suigyu21 | 2013-02-01 16:58 | Comments(0)