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水牛だより

恋愛は小説か

片岡義男さんの短編小説集『恋愛は小説か』が発売になっている。

去年の夏から「文學界」に連載された6編にその前に書かれた1編を加えた7つの短編が収録された一冊だ。この短編集を作ることはひそかに進んでいたので、「文學界」で連載が始まるときにはすでに4、5編は出来上がっていた。だから連載はすばらしいタイミングだったのだ。「あとがき」に名前の出てくる「文學界」の担当編集者だった鳥嶋さん、編集長の田中さん、単行本を担当してくれた北村さん、そして装丁の大久保さんと、この一冊が世に出るまでに関わったのが偶然とはいえ、みな女性であることもなんだか楽しいことだった。

「あり得ないか、あり得てもほんの一瞬でしかないような、夢のような、あるいは理想的な、関係や状況。これは書くに値するのではないか。僕が書くいわゆる男と女の物語が、いまではほとんどこの方向へと整理されている」とかつて片岡さん自身が書いたように、『恋愛は小説か』はそのような物語のひとつの頂点に達していると感じる。ストーリーは具体的ではあるけれど、実はものすごく抽象的であり観念的なのだ。抽象度と観念度が極まっている。

片岡さんの編集を担当するって、実際にはどんなことをするのか、と知り合いに聞かれた。原稿をもらって整理をしてから掲載予定の出版社に送る、というようなことは当然の業務だ。一編の小説を書く前に、あれこれ片岡さんと話す。それが編集ということの核心なのかもしれない。主人公やストーリーの展開について話す。片岡さんが話すのを黙って聞いているだけのことも多い。それから、直接はあまり関係がなさそうなことも話す。片岡さんは、「よし、出来た」と言って帰ることもあるのだが、数日後に送られて来る原稿を読むと、これがまったく想像外の内容だったりするのだ。

「一冊の本は、著者がそこから出発したしるしだ。」と辻まことが書いているように、『恋愛は小説か』が本になったときには、片岡さんの関心はすでに次に移っている。いまは食べることについてのエッセイを編集中で、きっと夏には出ると思う。『恋愛は小説か』と同時に進行していたもう一冊の短編小説集も原稿は出来上がっている。こちらは男性が主人公。たぶん、秋には出版されるでありましょう。
by suigyu21 | 2012-06-26 20:20 | Comments(0)