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水牛だより

愉しみ 14(2010.3.25)

水牛レーベルの十三枚目となる最新版CDは「富樫雅彦/Steve Lacy/高橋悠治」です。リリースは二〇〇九年十二月だが、録音されたのは二〇〇〇年のライブだ。そのライブを主催したエッグ・ファームとの共同制作にすることで、双方の聴き手にとどけるとともに資金難をのりこえた。

三人の演奏者のうち二人はすでに亡くなっている。そういうものをリリースしたのははじめてのことだ。あるライブで販売していたら(出張して売り子をするのも重要な仕事です)、富樫雅彦ファンだという若い人がとてもうれしそうにかつ激しく「ありがとうございます!」と言って買ってくれた。ふつうは売るほうがお礼を言うものなのにね。

たくさん売れるものなら企業としてのレコード会社が出せばいい。大量生産大量消費にはけっしてのらないものを送り出すのが水牛の役割だと考えてやってきた。買ってくれる人の満足した様子に触れると、この考えは間違っていないと実感する。きっとCDも大切にされているだろう。

出来心に近い状態で、でもいろんな人の協力を得て、水牛レーベルの最初の一枚「水牛楽団」を出したのは二〇〇一年二月だった。せっかくレーベルを作ったのだから、何か出し続けてみようと、これもまた出来心で思い立ち、それから九年たって十三枚目まで出したことになる。最大の難関はなんといっても資金がないことだから、どんなものでも出せるというわけにはいかない。「水牛楽団」の場合はすでに音源があった。藤井貞和「パンダくるな」、矢川澄子「ありうべきアリス」、木村迪夫「まぎれ野へ」など詩人の自作詩朗読シリーズは、声だけなら自前で録音できるというアイディアの実ったもの。

すべてのCDには資金問題とともにストーリーも残される。いちばん大きな事件は、矢川澄子さんが録音を終えて二か月後に自殺したことだろう。お別れの会にあわせてCDを仕上げ、それは予定よりたくさんの人たちに配られた。朗読の作品として残ってよかったとは思ったけれど、ぜんぜんうれしくはなかった。いちばん長い事件は、「冬の旅」の公演がことしで六年目を迎えて、まだまだ続きそうなことですね。

CDやDVDを作るのはとてもかんたんになり、全曲あるいは一曲ずつのダウンロードもあたり前になっている。水牛のCDの役割は終わったかなと感じることもある。それに、意識して在庫をあまり持たないようにしていても、十三タイトルもあるとすぐに合計一〇〇〇枚くらいのCDと印刷物が部屋を占領してしまって、困る。ちょうど「水牛楽団」が品切れになったのをきっかけに、少しずつこれまでのものを終わりにしながら、リリースしたい新しいものが出てくるのを静かに待ちたいと思うようになった。
by suigyu21 | 2011-01-22 21:13 | Comments(0)