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水牛だより

愉しみ 12(2009.11.25)

伊藤整と瀬沼茂樹による講談社文芸文庫『日本文壇史』全24巻を青空文庫のために入力しておきたいという意欲がまたふつふつとわきあがってきた。伊藤整の著作権が消滅するのは二〇二〇年、瀬沼茂樹は二〇三九年だから、わたしの寿命が先に尽きる可能性のほうがずっと高そうだけれど、明治期からぼちぼちとすすめておけば、後を引き継いでくれる人もあらわれるだろう、たぶん。

伊藤整の『日本文壇史』1から18巻が講談社文芸文庫から発売されたのは一九九四年から九七年にかけて。毎月新しい巻が出るたびに買っていた。ちょうどそのころ青空文庫をはじめようという話が持ち上がっていたので、『日本文壇史』をガイドにすれば、将来はその中に出てくる小説や詩などの本文が青空文庫に収録されていて、注釈としてすべて読めるようになるのだと想像して、ちょっと興奮したことを思い出す。

発足から十二年目を迎えたいまの青空文庫は、著作権の切れた日本語のテキストのデータベースとして存在しているが、最初はすべての作品のテキストデータとともに、エキスパンドブックという電子本に仕立てて並べていた。テキストを紙の本にならってコンピュータのモニタでも縦書きで表示する。日本語を読みやすく加工することは斬新なよろこびで、青空文庫はエキスパンドブックを集めた電子図書館という構想がはじめにあった。

入力して送られて来るファイルの数がどんどん増えたことが誘因となり、青空文庫からエキスパンドブック版が姿を消してからすでにたっぷりと時はすぎた。そのあいだに、インターネットは繋ぎっぱなしになり、携帯電話が手放せないものになり、コンピュータの環境はすっかり変わった。そして、最近ついに「SkyBook」「i文庫」「豊平文庫」などiPhone用の青空文庫ビューワーが相次いで発売された。縦書きで読みやすいフォント、文字などのサイズが変更できるなど、読書のための機能がいくつかついていて、何冊あっても持ち運びに困らない。まるで一巡したように、青空文庫をはじめたときに夢見たことが現実になっているのだ。iPhoneで読書だなんて、と思うでしょう? 思っているよりちゃんと読めますよ。こういうフォーマットのためなら、ふんだんにリンクのついた『日本文壇史』を作ってみたいと初心にかえったほどだもの。

アマゾンが開発した電子本を読むためのキンドルが日本でも発売されるというので、「電子書籍元年」とか騒がれているが、それは単にビジネスの世界のことにすぎない。電子書籍は使い勝手がよくないという話ももう心底聞きあきた。ほんとうに読みたいものがそこにあれば、どんなことをしてでも人は読む。伊藤比呂美さんはこんなふうにかっこいい。

「鷗外、それから太宰も、実は、ふつうの本より青空文庫で読んだ方が、五臓六腑に染みわたるような気がしております。つまり、ネットの画面そのままでは読みにくいので、まずHTMLで表示して、全文をハイライトして、それをコピーして、自分のコンピュータのWordに移して、縦書きに直して、好きなフォントに直したり旧かなを新かなにあるいはふりがなを除去したりして、自分の読みやすいように直していくうちに、全文を、まんべんなく、すみからすみまで、目で読むというより手で読んでいく。そうしますと、鷗外や太宰の声のあとをしっかりなぞりながら、耳を澄ませていくことができるのです。」(岩波文庫『読書のすすめ13』2009年5月)
by suigyu21 | 2011-01-21 20:03 | Comments(0)