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水牛だより

愉しみ 7(2009.1.25)

春から始まるイワトひょうげん塾で製本のワークショップをおこなうことになった。何をどう綴じようかと考えて愉しんでいる。手製本というと、自分にとって大切な一冊を手間と時間をかけて美しく綴じるというイメージが強いけれど、ひょうげん塾ではそういうのはやりません。いや、自分にとって大切な一冊でもいいし、もちろん美しく綴じるのも目的のひとつではあるけれど、ともかくやりはじめたらその日のうちにちゃんと一冊の本として完成させようと思っているのだ。回を重ねるごとに違うタイプの手製本がふえていくようにしたい。

はじめて製本に関心を持ったのは「『オンデマンド移動図書館』がやってきた」という記事を読んだときのこと。「季刊・本とコンピュータ」という雑誌の2003年冬号に載っていたものだ。

オンデマンド移動図書館とは屋根にパラボラアンテナをつけたミニバンのことで「ブックモービル」と呼ばれている。コンピュータとカラープリンタなどを積んで、どこにでも出かける。出かけた先では、ミニバンのまわりに集まった子どもたちがコンピュータのモニタで好きな本を選ぶと、パラボラアンテナの働きによってカリフォルニアにある事務局のサーバーからそのデータをダウンロードできる仕組み。それをカラープリンタで印刷して、ページの順に折って断裁し、綴じる。最後に表紙をつけて出来上がり。昼下がりの青空の下での工作といったのんびりした感じで、子供たちがそれぞれ自分だけの本を作っていた。

ブックモービルはブルースター・カールが設立したアメリカの非営利団体インターネット・アーカイブのプロジェクトのひとつ。20世紀のおわり、青空文庫と同じころに出来たこの組織は、青空文庫と同じように著作権の切れた本をデジタル化することから、いまや「アレクサンドリア図書館バージョン2」という計画にまで発展しているらしい。本だけでなく、映画や音楽、テレビ番組なども集めて、世界のどこでも使えるようにするという理念がある。

青空文庫を運営するひとりとして、このプロジェクト自体にもちろん興味はあったが、それよりも切実に感じたは、自分で製本した『不思議の国のアリス』を枕の下にいれて寝ているという女の子のエピソードだった。データというコンピュータの中にしかないものを自分だけの本にする過程は、本を呼びもどすことだ。だから誰かに買ってもらった立派な本よりも大事な宝ものとなる。データそのものやそれを印刷しただけでは宝ものにはならない。読むための必要最低条件を少しだけ超えて、ちゃんと綴じることが必要なのだと思う。

楽譜、台本、写真なども綴じられるし、「イワト」一年分を合本にするのもおもしろそう。一年、四回分の内容については次号で詳しくお知らせします。
by suigyu21 | 2011-01-21 19:40 | Comments(0)