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水牛だより

愉しみ 1(2008.1.25)

友人たちと青空文庫をはじめて10年がすぎた。無事に10歳を迎えた記念に「青空文庫製本部」というのをつくった。書店にあふれる大量生産の本と、自分好みの一冊だけの工芸品のようなルリユールとの間に、手渡すために自力で気軽にできる製本技術というのがありそうな気がする。青空文庫のなかからテキストを選んで編集し、内容にふさわしい装幀を考えるのは楽しい。読みたい人や読んでほしい人の分だけ作って、無駄なく配れるといいなと思う。

デジタルテキストという抽象を、本という具象に呼び戻す小さなこころみといえばカッコいいが、ほんとは道草好きな邪悪な虫が騒ぎ出したというところ。

次の製本ワークショップのためには田山花袋の『蒲団』を選んだ。最近文庫(講談社文庫)になった中島京子の『FUTON』を見てひらめいたのだ。『FUTON』は『蒲団』を本歌取りした長編小説で、2001年の東京を舞台にいくつもの込み入った三角関係の物語がくりひろげられる。さらにその物語には、『蒲団の打ち直し』という小説が挟みこまれている。笑えるタイトルの小説の著者は現代の竹中時雄(『蒲団』の主人公)として物語に登場し、時雄のように三角関係に翻弄されるアメリカ人の日本文学研究者デイブ・マッコリーという設定だ。『蒲団の打ち直し』の主人公は『蒲団』では名前のない竹中時雄の妻である。原作から100年後の視点で打ち直された『蒲団』の妻の物語は本歌の痛烈な批評となっていておもしろい。

それが証拠に、『FUTON』の後に『蒲団』を読むと、悩める主人公竹中時雄は動物のオスそのものだという気がしてくる。野生動物の生態のドキュメンタリーを見ると、どんな動物もいつだってオスはメスをめぐって本気でこぜりあいをくりかえしていて、そのマジメでコッケイな姿が時雄とダブる。もしかして、オスメス関係の基本は三角なのだろうか?

ともあれ『蒲団』をまずプリントして製本し、それから『FUTON』のピカピカなカバーとペラペラな表紙をはがして、落ち着いた表紙をつけよう。そしてその二冊を並べてみる。デジタルとアナログ、『FUTON』と『蒲団』、新しいものと古いものとがわたしの手のなかで出合う。
by suigyu21 | 2011-01-20 21:35 | Comments(0)