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水牛だより

太陽は沈んで

透きとおっているかのような月がかかっている。
花火の音が大きく聞こえて、ときどきはガラス戸に抵抗も感じるほどなのに、花火はまったく見えないな。

『うつろ舟』(ブラジル日本人作家・松井太郎小説選)が松籟社から発売になった。ちゃんと「本」になってとてもうれしい。

細川周平さんに松井太郎さんの私家版を見せてもらったのは去年の春の京都だった。一編ずつコピーされたものがホチキスで綴じられて表紙が糊付されている。それを何冊か束ねたものが箱に入っていたと記憶している。松井さんが自分で作った本は、それだけで充足している気配を色濃くただよわせつつも、もっと遠くへ行きたそうなところもあった。著者の松井太郎さんはそのときすでに90歳をこえておられるということだった。若いころに一家でブラジルにわたり、小説は歳をとってから書き始めたのだそうだ。

その後、時を経ずに製本のワークショップがあった。いつも参加してくれているサウダージ・ブックスの淺野卓夫さんにそのことを話したら、その私家版はぼくも持っています、そして熱狂的に読みました、と言う。そうたくさんは作ることができないだろう私家版を持っている人がブラジルから遠く離れた私のそばに二人もいるなんて、これは何かの縁というものでしょう。

岡村淳さんのサイトではすでに二つの作品が公開されていた、まるで当然のように。

だから日本で本になって、よかったな、とつくづく思う。本にならないのなら、青空文庫でなんとかして登録しようと、ぼんやり考えてもいたのだった。
by suigyu21 | 2010-08-21 19:58 | Comments(0)