水牛だより

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「災難ですね。」

誰にすすめられたのでもなく、SNSにあふれているような、誰かがおもしろいと書いているものでもなく、自分がどこかに惹かれて偶然のように手に取った本が、なんだかおもしろくて読みとおしてしまう。こどものころなら、ふつうのことだったけれど、高齢者になってからでも、やっぱりふつうにあることだ。

最近のそれはテッフィ『魔女物語』(田辺佐保子訳 群像社 2008)。我が家の書斎(歩いて2分のところにある公共図書館を書斎として使っている)で、外国文学の「テ」の棚を見ていたときに、ふと目にとまった。群像社ライブラリーの本はちょっと小さめなサイズなので、四六判の単行本と並んでいると目立つ。それが知らない作家の知らない本ならば、つい手にとってみる。そしてぱらぱらといい加減にページをめくってみる。

「春というのは煩わしいことのはじまる発端のときです。自然界が喜びに目覚めて、獣や人間たちは愛し合い、小狡いガキどもを産みます──災難ですね。」

こんなフレーズを目にとめて、あら、おもしろそう、と思い、一冊読んでしまった。

テッフィ(1872ー1952)はペテルブルグに生まれ、1910年に出版したユーモア短篇集で作家としての地位を確立した。チェーホフの後を継ぐ作家だったらしい。詩も書いた。ロシア革命のときにパリに亡命して、そこで死んだ。『魔女物語』はパリで書かれたものだと思うが、15の短篇すべてにロシアの伝説の妖怪や魔物が登場する。だからといって別世界のおどろおどろしい出来事ではなく、少しだけ偏ったマジメな現実のお話であり、ときに笑える。甘さのない笑い。

読者としてはじゅうぶんに楽しんだけれど、どこからか「災難ですね」という著者の声が聞えてくるような気がした。
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by suigyu21 | 2015-05-09 10:56 | Comments(2)