水牛だより

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月は匂う

ひとつ下の原稿を書いて、その夜がちょうど満月の皆既月食だったので無視できず、書いたこととはまるで関係がないと思いながら、つい「今夜は月食」とタイトルをつけた。そうしたら内澤旬子さんからツイッター経由でこんなコメントが届いた。

「でもタイサンボクの花は月の匂いがしますぜ、先輩。花びらの形や質感も、月を彷彿とさせます。実家のハス裏の家の庭にあり、二階自室からよく眺めていたことを思い出しました。」

言われてみると、その通りだと思えてうれしい。さらに、高校の中庭だったか、そこにわりと大きな朴木があり、梅雨の時期に大きな白い花を咲かせていたことも記憶の底からくっきりと浮かびあがってきた。両方ともモクレン科だから、朴木の花は白い色も形態もサイズも匂いも泰山木によく似ているのに、木はそんなにすっくと上に向かっていなかったし葉は大きくて艶がない。梅雨どきの薄暗く湿った空気のなかで発光するように咲いている大きな白い花の姿はほんとうに月のようでありました。中庭があのままなら、きっといまごろ咲いている。

満月と月食をなんとなく引きずっているが、昼間の明るさも機嫌よく受け止めよう。昼間の長い夏至が来る。
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by suigyu21 | 2011-06-21 00:06 | Comments(0)

今夜は月食

ひと月あまり、仕事でずっと夏目漱石といっしょに過ごしてきた。すべての小説を含む約80作品にざっと目を通した。長編小説は学生のころにぜんぶ読んだ。新聞に連載されただけあって、無知な学生にもストーリーを追うだけでおもしろく、会話のリズムに乗ってどんどん読めたことを思い出す。

この機会に始めて読んで気に入ったのは「一夜」「子規の画」そして「文士の生活」だった。「一夜」は短編小説。のちの漱石の小説のテーマでもある、男二人と女一人の関係がここにも描かれている。しかし三人の誰にも苦悩はない。いろんなことをしゃべってそのまま眠ってしまう、というだけで、何も起こらないところがいい。「子規の画」を読んで友情について思い、「文士の生活」の「明窓浄机。これが私の趣味であろう。閑適を愛するのである。小さくなって懐手して暮したい。明るいのが良い。暖かいのが良い。」という2行にウンと頷く。友だちの文士におしえてあげよう。

漱石に飽きて、雨が降っていなければ、外に出る。路地を入ると上から芳香が降りかかってきた。ハッとして上を見上げると、大きな泰山木に大きな白い花がたくさん咲いている。何年も住んでいてよく通る道なのに、花に遭遇したのは初めて。花が咲いていないと泰山木だということもわからなかったわけだ。木は二本ある。しばしとどまって花を見ながら全身に芳香を浴び、それだけを感じる。
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by suigyu21 | 2011-06-15 23:33 | Comments(0)