水牛だより

<   2011年 05月 ( 3 )   > この月の画像一覧

先生の流儀?

トークがおしまいにさしかかり、クッツェーのある小説が『誰がために鐘は鳴る』の辛辣なパロディである、という話題になった。話を聞いている私の隣の椅子にすわっている先生がもぞもぞとジーンズの上に右手の指で何か文字を書いている。「が」や「る」が入っているのだけは読みとれた。トークが終わって会場から外に出て、解放されたとたんに先生が言う。『誰がために鐘は鳴る』の話があったでしょう。それを小説のタイトルにしてみようと考えてみたのです。『だれのために柿は成るのか』どうですか? 

このふたつのタイトル、おおまかに言えば、鐘と柿、という一文字の違いでしかない。この国では昔から柿を食べれば鐘は鳴ることになっているし、ふたつ並べてみると笑うしかなくて、実際に笑いながら駅までの道を歩いたのだった。そのうち『だれのために柿は成るのか』というタイトルの短編小説が届くのだろうか。翌日、通り道の柿の木を観察すると、もうちいさな花が咲いているので写真にも撮ったほどだ。小説を書くときの先生は私が知っている生身の人格(?)ではなくて、フィクションの人になるらしい。小説について話すことが多いから、わかったような気になって想像していても、出来上がって送られてくる小説はそれとはまったく違う内容のことが多くて、いつも驚かされているのだった。
[PR]
by suigyu21 | 2011-05-21 20:27 | Comments(4)

花園はヒミツです

震災の後は外で飲んでもあまり遅く帰ることはなかったが、連休最後の日曜日の夜、友だちと飲んで、久しぶりに深夜になった。深夜といってもまだちゃんと電車は動いている時間だ。駅から歩いて自宅に向かっていると、あ、オレンジの花の匂い。花咲く木があるところはわかっている。30メールほど先から強く匂っているのはきっと花が開いたばかりなのだと思って、足早にその木に近づいて観察する。葉に隠れた奥に目立たない白い花がたくさん咲いている。そのかぐわしさに世界の不思議をうっとりと感じつつ、しかし人がいないことだけは冷静に確認して、花のついた小さな一枝をいただいた。手入れはされず、道端に勝手にはえている風情の木なので花もたくさん咲きすぎているから、許されるでしょう。部屋の中で茶色に枯れてからも匂いはまだ残っている。

小学生のころ「秘密の花園」のマンガ版を読んだ。主人公のメアリといとこのコリンがぜんぜん可愛くないのが意外だった。メアリやコリンという名前の「西洋人」もかかわらず、なのだ。当時のマンガの世界にはめずらしいことだった。それが気になっていて、いつか原作を読みたいと思っていた。で、読みました、『秘密の花園』(土屋京子訳 光文社古典新訳文庫)。おおざっぱに言えば、マンガ版の印象とあまり違わないのはよかったと思える。

しかし細部のいろんなおもしろさは当時のマンガには描かれていなかったのかもしれないし、きちんと描かれていたとしても、当時の年齢の自分にはわからないことだったと思う。そもそも、「GARDEN」が「花園」と訳されたことがすばらしいなあ。コリンの瞳は不思議な灰色、動物や植物のことがわかるディコンの瞳は空のような青。そんな色の瞳がいつも目の前にあったら、深く影響されそうな気がする、というようなおもしろさ。ページを繰るごとにちいさな驚きがあって、原発の問題は大きくなりつつあるこの現実の世界だけれど、ただそれだけがあるのではないことを思い出させてくれたのでした。
[PR]
by suigyu21 | 2011-05-12 22:00 | Comments(2)

エネルギーを食べる

毎年タケノコの季節になると、パーティをするよ、と呼んでくれる友あり。自宅の脇に竹林があり、ニョキニョキとタケノコが出て来るのだ。

今年はいつもより遅く、きのうがその日だった。去年まで、その竹林は誰かよその人の所有だったが、今年は彼女たちのものになっていた。あれこれうるさいから買っちゃったわ、ということらしい。いろんなタケノコ料理とお酒類がテーブルに並んでいて、それぞれ好きに食べ、かつ好きに飲む。いつも最初は若竹煮に気持ちを持っていかれるのだが、ことしの最初は薄く切ったお刺身タケノコにブルサンチーズを載せて。タケノコごはんなどはもちろん、グラタンやカレーもあって、カツは外に出て揚げ、揚げたてをほうばる。ついでに庭にあるタラの芽もつまんで揚げる。日本酒は切りたての竹の筒で飲む。どれもおいしい。

食べている横には土の上に一メートルほど伸び上がって、まだ黒い皮をつけたままの一本がはえている。その姿はかわいらしいけれど、次の日にはどんなふうになっているのかな。

帰りに姫皮のトマト煮をいただいてきたので、きょうのお昼はパスタにした。木の芽とパルメザンチーズをたっぷりかけて。ごちそうさま!

なぜかタケノコには駆り立てられる。あの成長するエネルギーにやられるのだろうか。こうしてニョッキリの季節にたくさん食べさせてもらうと、他の季節には食べたいと思わない。食べてもおいしくない。タケノコに関しては健全な食欲でいられる。
[PR]
by suigyu21 | 2011-05-01 17:34 | Comments(0)