水牛だより

2017年 11月 30日 ( 2 )

引き算レシピ8 きゃべつのおかゆ

野菜をゆでて食べるなら、まず歯ごたえよく、さらに色よく仕上げたいと思う。だから、頃合いをみはからって短時間でお湯から引き上げる。というのが常だった。しかしイタリアには野菜をほとんど歯ごたえのなくなるまでゆでたり蒸したりする食べかたがあるらしいことを本で知り、「ゆでカリフラワー」なるものを半信半疑でやってみた。

やってみたといっても、塩を入れたお湯に丸のままのカリフラワーを入れて、ふたをして中火でゆでるだけ。くずれる寸前までやわらかくゆでたカリフラワーをそっと取り出してざるに上げてお湯をきり、小さな房に分けて塩とオリーブオイルをかけて食べる。たったこれだけのことなのに、なぜこんなにおいしいの? 口のなかでやわらかく甘くとけていく。「ゆでさやいんげん」というのもあって、こちらはやわらかく蒸し煮にしたものを塩とオリーブオイルににんにくを加えてあえる。やはり、甘い! やわらかくなるにしたがって野菜の成分のなにかが変化して甘くなるのかな。どこかごちそうという感じの味になっている。

三年くらい前に発見したこの調理法をまたしみじみと見直すことになったのは「ともしい日の記念」(片山廣子)を読んだから。

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米一合に小さいきやべつならば一つ、大きいのならば半分ぐらゐ、こまかくきざんで米と一しよにぐたぐた煮ると、米ときやべつがすつかり一つにとけ合つてしまふ。うすい塩味にして、それに日本葱を細かく切つて醤油だけで煮つけて福神漬ぐらゐの色あひのもの、まづ葱の佃煮である、これをスープ皿に盛つたお粥の上にのせて食べる。宿屋のお勝手で教へられたとほり作つてみると、温かくて甘くすべこく誠によい舌ざはりであつた。

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敗戦直後の軽井沢で、著者と同じ宿屋の二階に二人の子供があるアメリカ人一家が、「夕飯の時はきまつた量のパンと一品の肉料理、野菜と、そのあとでお粥をたべた」という、そのおかゆなのである。ゆでカリフラワーの味を経験していれば、きゃべつのおかゆのおいしさはズバリ想像できる。「このごろ食べるものはそれ程くるしくないのできやべつのお粥なぞ久しく忘れてゐたが、これは今食べても中々おいしい」と、ちゃんと書いてある。ぐたぐた煮るとなれば冬のしっかり巻いたきゃべつがよさそうだ。葱の醤油煮がさらに想像をかきたててくれる。

ともしい日、とは戦争中と戦後の食べるもののなかったころをいう。乏しく苦しかった日の記念日として年に一度「こんなきやべつのお粥とか砂糖なしの塩あんしることか、肉なしコロツケとかいふやうな献立を考へて、それもそれなりに愉しくおいしく食べてみたらどうかと考へる」。

「ともしい日の記念」は一九五三年出版の『燈火節』に収録されている。片山廣子は一八七八年の生まれだから終戦の年には六十七歳だった。日々食べるものから見出された「何とかして健全に愉快に生きつづける工夫」を静かに受けとめていきたい。

一九一〇年代からアイルランド文学を翻訳・紹介した松村みね子は片山廣子のもうひとつの名前です。


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by suigyu21 | 2017-11-30 20:53 | Comments(0)

引き算レシピ7 トマト

森光子主演の「放浪記」を見たことがある。記録的な再演を重ねただけあって、芝居としてはある種の完成をみせていておもしろかったけれど、林芙美子その人は森光子演じる芙美子とはまったく相容れない別人のような気がした。「放浪記」という芙美子の青春時代から死ぬまでのお話には、パリに住んだり、戦時中に報道班の一員として中国、ジャワ、ボルネオなどに行ったというあたりはきっと意識的にカットされたのだろう。

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これからはトマトも出(で)さかる。トマトはビクトリアと云う桃色なのをパンにはさむと美味(うま)い。トマトをパンに挟む時は、パンの内側にピーナツバタを塗って召し上れ。美味きこと天上に登る心地。(「朝御飯」林芙美子)

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一九三九(昭和十四)年に出版された選集に載っているこんな洒落た味わいも森光子の林芙美子にまったくなかったものだ。

ビクトリアとはどんなトマトなのだろうか。皮が無色透明なトマトを桃色系というらしいから、桃太郎に似ているのかもしれない。ピーナツバタと合わせるのなら、甘いほうがおいしそうだ。それをやわらかい食パンで挟んだサンドイッチ。それを食べながら桐野夏生の『ナニカアル』を読めば、新しい林芙美子に出会えそうだ。

どんなに冷房のきいたキチンでも、暑いときにはできるだけ火を使いたくない。トマトは切るだけでおいしく使える強い味方だと思う。

たとえば朝ならトマトごはん。ひとり一個分のトマトをさいころに切る。ショウガを最低ひとかけみじんに切って、塩とともにトマトと混ぜ合わせる。ショウガは多めにね。しばらくそのまま置いて、トマトから水分が出てくるのを待ちます。あたたいごはんを茶碗に盛って、モミ海苔を一面にかける。その上からトマトを汁ごとかけて、まぜあわせながら、はい、召し上がれ。塩味のきいたトマトがごはんと海苔にからまっておいしいのです。トマトは完熟のものだけでなく、未熟(?)な青くさいものもおいしい。

パスタなら冷たいトマトソースを。予定しているパスタが全部入る大きさのボールか鍋にオリーブオイルを入れ、ニンニクのみじん切りと唐辛子、それから塩胡椒を好きなだけ加えて、香りがオイルに移るまでしばらく置いておく。そこに乱切りのトマトを入れてよく混ぜてから、パスタを茹ではじめる。パスタが茹であがるときにはトマトからジュースがたっぷり出てきているはず。トマトは皮を剥いて使うほうがおいしいと言われているけれど、私は剥かない。パスタを熱いうちにどっとトマトソースに投入して、じゅうぶんにトマトのジュースを吸わせたら、はい、召し上がれ。ソースにいろんなハーブを入れてもおいしいが、トマトだけのほうがさっぱりしていて夏らしい。でも大葉なら、細切りにしてたっぷりのせるとさらに夏の味になります。

トマトはパンやごはんやパスタと相性がいい。真夏の朝や昼間に、太陽といっしょに食べるのがよく似合うのはそのせいかもしれない。


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by suigyu21 | 2017-11-30 20:51 | Comments(0)