水牛だより

引き算レシピ7 トマト

森光子主演の「放浪記」を見たことがある。記録的な再演を重ねただけあって、芝居としてはある種の完成をみせていておもしろかったけれど、林芙美子その人は森光子演じる芙美子とはまったく相容れない別人のような気がした。「放浪記」という芙美子の青春時代から死ぬまでのお話には、パリに住んだり、戦時中に報道班の一員として中国、ジャワ、ボルネオなどに行ったというあたりはきっと意識的にカットされたのだろう。

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これからはトマトも出(で)さかる。トマトはビクトリアと云う桃色なのをパンにはさむと美味(うま)い。トマトをパンに挟む時は、パンの内側にピーナツバタを塗って召し上れ。美味きこと天上に登る心地。(「朝御飯」林芙美子)

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一九三九(昭和十四)年に出版された選集に載っているこんな洒落た味わいも森光子の林芙美子にまったくなかったものだ。

ビクトリアとはどんなトマトなのだろうか。皮が無色透明なトマトを桃色系というらしいから、桃太郎に似ているのかもしれない。ピーナツバタと合わせるのなら、甘いほうがおいしそうだ。それをやわらかい食パンで挟んだサンドイッチ。それを食べながら桐野夏生の『ナニカアル』を読めば、新しい林芙美子に出会えそうだ。

どんなに冷房のきいたキチンでも、暑いときにはできるだけ火を使いたくない。トマトは切るだけでおいしく使える強い味方だと思う。

たとえば朝ならトマトごはん。ひとり一個分のトマトをさいころに切る。ショウガを最低ひとかけみじんに切って、塩とともにトマトと混ぜ合わせる。ショウガは多めにね。しばらくそのまま置いて、トマトから水分が出てくるのを待ちます。あたたいごはんを茶碗に盛って、モミ海苔を一面にかける。その上からトマトを汁ごとかけて、まぜあわせながら、はい、召し上がれ。塩味のきいたトマトがごはんと海苔にからまっておいしいのです。トマトは完熟のものだけでなく、未熟(?)な青くさいものもおいしい。

パスタなら冷たいトマトソースを。予定しているパスタが全部入る大きさのボールか鍋にオリーブオイルを入れ、ニンニクのみじん切りと唐辛子、それから塩胡椒を好きなだけ加えて、香りがオイルに移るまでしばらく置いておく。そこに乱切りのトマトを入れてよく混ぜてから、パスタを茹ではじめる。パスタが茹であがるときにはトマトからジュースがたっぷり出てきているはず。トマトは皮を剥いて使うほうがおいしいと言われているけれど、私は剥かない。パスタを熱いうちにどっとトマトソースに投入して、じゅうぶんにトマトのジュースを吸わせたら、はい、召し上がれ。ソースにいろんなハーブを入れてもおいしいが、トマトだけのほうがさっぱりしていて夏らしい。でも大葉なら、細切りにしてたっぷりのせるとさらに夏の味になります。

トマトはパンやごはんやパスタと相性がいい。真夏の朝や昼間に、太陽といっしょに食べるのがよく似合うのはそのせいかもしれない。


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by suigyu21 | 2017-11-30 20:51 | Comments(0)