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水牛だより

国に拠らず

岩波新書で小泉英政さんの『土と生きる 循環農場から』が出版されたのは今年9月だ。9月といえば農繁期でもある。ようやくそのお祝いの会が出来たのは12月7日のことだった。小泉さんの作る野菜を使った料理がたくさん並ぶカウンター席での小泉さんを囲む少人数のお祝いはとてもよかった。小泉さんが「書く」ということについて話すのを聞くのは楽しい。ベ平連のころに、「思想の科学」に書くことになって、鶴見俊輔さんに、一冊の本にすることを考えて書くように、と言われたという話は、長いつきあいだけど、はじめて聞いたことだった。

月に一度届く循環農場の野菜のダンボール箱を開けると、新聞紙に覆われた野菜の上に、「循環だより」というA4一枚のビラが入っている。野菜から浸出してくる水分を吸って、紙はたいていしっとりとしめっている。小泉さんが書くこのビラの蓄積から本は生まれた。毎回一枚のものなので、読んでから捨てることもあるが、心にとまることが書いてあると、保存してある。新書が出たあとの10月後半のビラはとってあった。その一節。

「ぼくが文章を書く時、ほとんど無意識のうちに気にかけていることがあります。一つは、人を感動させないように書くという事です。これは、詩人、金子光晴の教え(実際会った訳ではないが)です。もう一つは、正義を振りかざさないという事です。これは非暴力の座り込みから学んだ事です。もう一つは、自分が何を感じたか、どう思ったのかをつきつめて書くという事です。前の二つは、いつも念頭には置いていませんが、三点目の、自分はどう思ったのかという問いは、いつも自分に発しながら、机に向かっています。」

書き下ろされた四章にあたる「国に拠らず」を読むと、これらの三つのことはどういうことか、実際に感じることができる。なにを書くかはもちろん大事だけど、どのように書くか、はもっと考えなければいけない。こんな世の中だからこそ、感動と正義からどう距離をとるか、もっともっと考えなければいけない。
by suigyu21 | 2013-12-09 22:53 | Comments(0)