水牛だより

今夜は月食

ひと月あまり、仕事でずっと夏目漱石といっしょに過ごしてきた。すべての小説を含む約80作品にざっと目を通した。長編小説は学生のころにぜんぶ読んだ。新聞に連載されただけあって、無知な学生にもストーリーを追うだけでおもしろく、会話のリズムに乗ってどんどん読めたことを思い出す。

この機会に始めて読んで気に入ったのは「一夜」「子規の画」そして「文士の生活」だった。「一夜」は短編小説。のちの漱石の小説のテーマでもある、男二人と女一人の関係がここにも描かれている。しかし三人の誰にも苦悩はない。いろんなことをしゃべってそのまま眠ってしまう、というだけで、何も起こらないところがいい。「子規の画」を読んで友情について思い、「文士の生活」の「明窓浄机。これが私の趣味であろう。閑適を愛するのである。小さくなって懐手して暮したい。明るいのが良い。暖かいのが良い。」という2行にウンと頷く。友だちの文士におしえてあげよう。

漱石に飽きて、雨が降っていなければ、外に出る。路地を入ると上から芳香が降りかかってきた。ハッとして上を見上げると、大きな泰山木に大きな白い花がたくさん咲いている。何年も住んでいてよく通る道なのに、花に遭遇したのは初めて。花が咲いていないと泰山木だということもわからなかったわけだ。木は二本ある。しばしとどまって花を見ながら全身に芳香を浴び、それだけを感じる。
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by suigyu21 | 2011-06-15 23:33 | Comments(0)